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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)10039号 判決

原告

内田晴三

被告

西武建設株式会社

ほか一名

主文

被告らは各自原告に対し金二一九〇万七一四九円及び内金二〇四〇万七一四九円に対する昭和四八年五月八日以降、内金一五〇万円に対する第一審判決言渡の日の翌日以降各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一申立

(原告)

一  被告らは各自原告に対し二一九〇万七一四九円及び内金二〇四〇万七一四九円に対する昭和四八年五月八日以降、内金一五〇万円に対する第一審判決言渡の日の翌日以降各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行の宣言

(被告ら)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二原告の主張

(請求の原因)

一  事故の発生

訴外内田三男(以下三男という。)は次の交通事故によつて頭骨骨折、頭蓋内損傷の傷害を負い、当日午後一〇時四〇分死亡した。

(一) 日時 昭和四八年五月七日午後一〇時一〇分頃

(二) 場所 東京都練馬区北町一丁目七番地路上

(三) 被告車 普通貨物自動車(練馬一一さ二二七四、四トンダンプトラツク)

運転者 中野重雄

(四) 原告車 普通乗用自動車(練馬五五ぬ三一六六)

運転者 三男

(五) 態様 成増方向から池袋方向へ通行中の原告車に被告車が衝突した。

二  責任原因

被告会社は土木建築事業を営業とする会社であるか、昭和四七年七月二〇日東京都下水道局から東京都練馬区桜台五・六丁目付近枝線工事と題する工事(桜台下水道工事)を請負つた。右工事の一環である残土の運搬については被告会社が車両を有しないところから被告明才地、訴外西武運輸、訴外統計商事に下請させた。被告明才地は昭和四七年一〇月頃右工事完成まで専属的に残土運搬の業務に従事させるため中野重雄をその所有する被告車とともに被告会社に派遣した。中野重雄は残土運搬の業務に従事中、被告会社から直接指揮監督を受け残土の運搬業務のみならず人夫として一般土木工事の手伝い等もしていたもので、被告会社の専属的下請人ということを越えて従業員と目されて然るべき状況であつた。中野重雄は本件事故当日まで被告会社の仕事以外の仕事はせず継続的に被告会社の業務に従事していた。中野重雄に対する賃金の支払は被告会社から被告明才地を経由して支払われており、被告明才地は右賃金の中から利得を得ていた。

よつて被告会社及び被告明才地は、被告車の運行供用者として自賠法三条による損害賠償義務を負う者である。

三  損害

(一) 逸失利益の相続 一九一〇万七一四九円

(1) 停年時までの逸失利益

三男は昭和二五年五月一六日生(事故時二三才)の男子で日本大学理工学部電気工学科を昭和四八年三月に卒業し直ちに橋本電気株式会社に就職し五八才の停年退職時(五八才)までの三五年間勤務し得たものである。三男の昭和四八年五月の給与は手当を含め月額五万九〇〇〇円であるが、同社の入社三年の社員の給与は月額九万円、同五年の社員の給与は一一万円、同一〇年の社員の給与は月額一五万円であり、同三五年の社員の給与は月額三五万円の予定である。また同社の賞与は年間四ないし五ケ月分である。右収入を基礎とし生活費等の経費を収入の二分の一として控除し、ライプニツツ式により年五分の割合による中間利息を控除した右三五年間の逸失利益の現価は一五四一万六八二四円となる。

(2) 逸失退職金

三男は同社に停年まで勤務すると九五五万円の退職金を得られたはずであり、ライプニツツ式により年五分の中間利息を控除するとその現価は一七三万〇四六〇円となる。

(3) 停年退職後の逸失利益

三男は同社を停年退職後も一〇年間(五八才から六七才まで)は他の会社等に就職して就労し得た者であり、収入は前記会社の停年退職時の収入の三分の二を下らないことは経験則上明らかである。よつて収入を停年時の月額三五万円の三分の二とし前同様の方式により算出すると停年後の逸失利益の現価は一九五万九八六五円となる。

(4) 原告は三男の父で唯一の相続人であり、被告らに対する右逸失利益合計一九一〇万七一四九円の損害賠償請求権を相続したものである。

(二) 葬儀費 三〇万円

(三) 慰藉料 六〇〇万円

(四) 弁護士費用 一五〇万円

四  損害の填補(自賠責保険)五〇〇万円

五  結び

よつて原告は被告らに対し二一九〇万七一四九円及び弁護士費用を除く内金二〇四〇万七一四九円に対する本件事故の翌日である昭和四八年五月八日以降、弁護士費用一五〇万円に対する第一審判決言渡の日の翌日以降各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告会社の主張

(請求の原因に対する答弁)

一  請求の原因一の事実は認める。

二  請求の原因二の事実中、被告会社は土木建築業を営む会社である事実、被告会社が昭和四七年七月頃東京都下水道局から桜台下水道工事を請負い、そのうち残土の運搬を被告明才地、西武運輸、統計商事に下請させた事実及び被告車が中野重雄の所有である事実は認め、その余の事実は否認する。

被告会社が東京都下水道局から受注した桜台下水道工事は東京都の設計及び計画測量に基づき約一キロメートル余の下水管渠埋設工事であり、被告会社では東所長、中村工事主任等五名の職員で運営された。被告会社は右工事をクレーンを扱う業者、掘削土工運送業者、建材業者、舗装業者等に区分発注して工事を施工した。被告会社は単に東京都とのパイプ役、地元との調整、施工についての整理が主な仕事の内容であつて、それぞれの各区分毎の工事については各業者の責任と判断において行つていたものである。残土運搬についても右の例にもれず、特に実績のある業者として前記西武運輸、統計商事及び被告明才地に発注していたものである。残土運搬等に関連する交通事故等についても被告会社としては五人の職員であるためにその運行についての細かい指示等は全て各業者の責任と監督に委ねていた。被告明才地は被告会社から残土運搬の外建材の運搬等を受注しその工事は月額平均約七四万円の取引であつた。したがつて被告明才地は被告会社に専属していたものではなく他からも受注しており被告会社の仕事はその一部にすぎなかつたものであり、ガソリンの供与、車庫の提供、社名使用の許可等の事実もなく、被告会社と被告明才地との関係は通常の注文者と業者との関係であつて被告会社の自由になる支配関係ではない。中野重雄は被告明才地の専属者として右工事に出入していたものであり、被告会社は中野重雄と直接契約した事実は全くない。

中野重雄は本件事故当時飲酒していたが、これも同人の責任と判断において自ら求めて飲酒したものであり、同人に対する監督責任のない被告会社には何らの責任もない。

以上の次第であるから被告会社は被告車に対する運行の支配と利益を有せず、被告車の運行供用者ではない。

三  請求の原因三の事実は不知。

四  請求の原因四の事実は認める。

第四被告明才地の主張

(請求の原因に対する答弁)

一  請求の原因一の事実は不知。

二  請求の原因二の事実中、被告明才地が被告車に対する運行の支配と利益を有する旨の事実は否認する。

中野重雄は丸石運輸有限会社の下請として被告会社の仕事に従事していたものであるが、昭和四七年九月末頃下請でなく被告会社から直接仕事を請けたいとの相談を被告明才地に持込み、その頃被告明才地は中野重雄に対し被告会社現場責任者中村正文を紹介しその結果中野重雄は被告会社の仕事を直接行うことになつた。したがつて中野重雄は被告会社の指示によつて仕事をしており、被告明才地は被告車を支配する権限も支配した事実もない。よつて被告明才地は被告車の運行供用者ではない。

三  請求の原因三、四の事実は不知。

第五証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

原告と被告会社との間で請求の原因一の事実は争いがない。原告と被告明才地との間で、成立に争いのない甲第一、二号証、第五ないし第二二号証、証人中村正文の証言の一部、中野重雄の供述を総合すると請求の原因一の事実が認められる。

二  責任原因

被告会社は土木建築業を営む会社であり、昭和四七年七月頃東京都下水道局から桜台下水工事を請負い、右工事の一環である残土の運搬を西武運輸、統計商事及び被告明才地に下請させていた事実及び被告車は中野重雄の所有である事実は、原告と被告会社との間で争いがなく、被告明才地は右事実を明らかに争わないので自白したものと看做す。右事実に前判示甲第一一号証、証人中村正文、東外志夫の各証言、中野重雄の供述並びに被告明才地本人尋問の結果により成立を認める乙第一ないし第一二号証(枝番号を含む)及び右供述を総合すると次の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。桜台下水道工事は東京都の設計及び計画測量に基づき約一キロメートル余の下水管渠埋設工事である。被告会社は右工事をいくつかに区分して業者に依頼し、被告会社桜台作業所長東外志夫、主任技術者中村正文らが統括して工事を進行していた。被告会社は、路面を掘削し下水管を埋設した後の残土を搬出運搬する作業部分を西武運輸、統計商事及び被告明才地の三者に依頼してきたが、右三者は残土の運搬に関し二トン車、四トン車の普通貨物自動車を利用してきた。右三者の残土運搬の受注割合は被告明才地が大部分で、他の二者はわずかであつたと窺える(乙第二ないし第一一号証の各一には他二者の記載はなく乙第一二号証の一ないし二九にわずかに散見される程度である。)。被告明才地は、大型貨物自動車数台、普通貨物自動車数台を配下において建材業、運搬業等を営む業者で、〈桜台下水道工事に関しては普通貨物自動車による残土の運搬の他、建材の納入や大型貨物自動車による運搬業務等をも受注していた。〉被告明才地は右残土の運搬に関し支配下の四トン車四台、二トン車一台を随時運転手つきで桜台作業所へさしむけてきたが、昭和四八年三月から五月までは中野重雄所有の被告車のみが派遣された。中野重雄は、右の一員として、昭和四七年九月頃から被告明才地を通じて、その所有の被告車を持ち込みで、被告会社の桜台下水道工事の残土運搬の業務に従事し、被告明才地を通じて、日額八五〇〇円ないし九五〇〇円の報酬を受け、被告明才地はこのうちから日額五〇〇円程度を中野重雄から受領して利益を受けてきた、被告会社は桜台作業所主任技術者中村正文が各工事部門からの配車要求を整理して各業者に連絡して配車を受けてきた。中野重雄は略毎日残土運搬業務に従事していたので、被告会社は前日の業務終了時に直接同人に対し翌日の日程を告げていた。被告明才地は、被告会社から中野重雄に交付される伝票により毎月の同人の就労状況を知りこれにより被告会社に対し同人の報酬を請求受領し、前判示日額五〇〇円程度を控除した残額を中野重雄に交付してきた。

右事実によると被告会社は桜台下水道工事の遂行にとつて不可欠の一部分を構成する残土の運搬を業者との間の請負契約に依存しているものであり、被告車も右の仕組に組み込まれた一環をなすものであり、連日被告会社の残土運搬業務に従事してきたものであるから、被告会社は被告明才地との間の右請負契約を通じ間接的に中野重雄の具体的業務遂行を通じ直接的に被告車を指示制御し得る地位ないし指示制御すべき地位にあつた者と判断できる。また被告明才地は中野重雄との下請契約を通じ被告車を指示制御しないし指示制御し得る地位にあつたと判断できる。そして被告らはこれにより運行の利益を得ていた者である。

被告会社は、被告明才地の右残土運搬に関する被告会社との取引は被告明才地の全営業の極く一部を占めるにすぎず、被告明才地は被告会社と専属的請負契約関係にあるとはいえないので、被告会社は被告車の運行供用者ではない旨主張するが前判示のとおり被告車の右残土運搬業務が被告会社の桜台下水道工事の遂行のための仕組として不可欠の構成部分をなしている以上、それが被告明才地全営業部分において占める割合を問わないものと判断できるので、被告会社の右主張も前記判断を左右しない。

してみると被告らは自賠法三条に基づき被告車の運行供用者として本件事故による損害を賠償すべき義務を負う者である。

三  損害

(一)  逸失利益の相続 一九一〇万七一四九円

成立に争いのない甲第四号証、原告本人尋問の結果により成立を認める甲第三号証、右供述及び弁論の全趣旨によると、三男は昭和二五年五月一六日生の健康な男子で昭和四八年三月に日本大学理工学部電気工学科を卒業し直ちに橋本電気株式会社に就職して日浅い同年五月七日本件事故により死亡した事実が認められる。右事実によると三男の死亡による逸失利益は、(1) 昭和四八年五月七日から昭和四九年五月六日までの一年間は昭和四八年度賃金センサス男子大卒平均賃金を基礎とし、(2) 昭和四九年五月七日から六七才までの四三年間は昭和四九年度賃金センサス男子大卒平均賃金を基礎としいずれも生活費等の経費を収入の五割、中間利息をライプニツツ方式により年五分を控除して算出するのが相当であり、これにより算出した逸失利益は原告主張の一九一〇万七一四九円を下らない(別紙計算書参照)。

そして右証拠によると原告は三男の父で唯一の相続人である事実が認められるので、原告は被告らに対する右一九一〇万七一四九円の逸失利益の損害賠償請求権を相続したものである。

(二)  葬儀費 三〇万円

原告本人尋問の結果によると、原告は三男の死亡により葬儀を執行した事実が認められる。右事実によると原告はこれにより三〇万円の損害を受けたと推認できる。

(三)  慰藉料 六〇〇万円

前判示三男の被害の程度、原告との身分関係その他本件口頭弁論に顕われた諸般の事情によると本件における原告の慰藉料は六〇〇万円が相当である。

四  損害の填補 五〇〇万円

原告が自賠責保険から五〇〇万円を填補受領した事実は原告の自陳するところである。

五  弁護士費用 一五〇万円

弁論の全趣旨によると原告は被告らが任意の支払に応じないので原告訴訟代理人に本件訴訟を委任した事実が認められる。そして本件訴訟の経過、難易度、認容額その他諸般の事情によると被告らに支払を命ずべき本件事故と相当因果関係のある弁護士費用の損害の第一審判決言渡時の現価は一五〇万円を下らない。

六  結論

以上説示のとおりであるから結局被告らに対し損害賠償として二一九〇万七一四九円及び弁護士費用を除く内金二〇四〇万七一四九円に対する本件事故後の昭和四八年五月八日以降、弁護士費用一五〇万円に対する第一審判決言渡の日の翌日以降各完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の被告らに対する本訴請求は全部理由があるので認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宮良允通)

(1) 48.5.7(23才)~49.5.6(24才)

(12万5800×12+50万8700)×0.5×0.9523=96万1013

(2) 49.5.7(24才)~43年(67才)

(15万6700×12+65万1600)×0.5×(17.6627-0.9523)=2115万5366

(1)+(2)=2211万6379

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